伊藤洋一のRound Up World Now! 5月21日(金)放送分の文字起こし 後編

今週【5月21日(金)】のポイント

今週のマーケットの動きをこう見る
今週のマーケットの動きをこう見る【5月21日(金)】
岸田 それでは、今週のマーケットの動きについて 本当に大荒れの一週間でしたね。
伊藤 そうですね。5月の6日にNYの株式がドスンと落ちましたよね?
岸田 1,000ドル近く落ちましたね。
伊藤 998ドルなんですけど、私は、「それ(5月6日(木))以来ずっと2つの不安がマーケットをずっと覆っていて、何かあるとそれが顔を出すという構造になっているな」という風に思っています。
岸田 二つの不安…
伊藤 はい。一つは、ギリシャに端的に表れているんですけれども、「財政の赤字が膨らみがちな先進国経済をどう考えたらいいか」という問題です。
岸田 ソブリンリスク*1と呼ばれるものですか。 ソブリンリスク:(sovereign risk)外国の政府や中央銀行、外国地方公共団体といった事実上の外国国家に対する融資におけるリスク。カントリーリスクと同義で使われることもある言葉だが、厳密に区分するならば、ソブリンリスクは特に国家への融資に関するリスクに限定されている。引用元:ソブリンリスクとは 〜 exBuzzwords用語解説
伊藤 そういうことです。今週、再びギリシャでは ストが行われました。「公務員を含めて かなりに人が参加した」と言われています。暴力行為は無かったんですけれども 何が示されたかというと、「政府の緊縮財政には反対だ!」とギリシャの多くの働く人が意思表示したということになります。そうすると、ギリシャの現政権は300億ユーロの財政赤字削減を約束しています。でも国民は「反対です。できないんじゃないのか?」と思います。
岸田 そうですよね。
伊藤 政府は国民の選挙によって選ばれてますから、国民がNOと言ったものを最後は強制できない、そういう不安があります。結局今はギリシャ国民が、「政府が示した緊縮策をきっちりやれるかどうか」というところに、世界全体のマーケットの安定が かかってきてしまう。みたいな形になっているわけです。でもこれは同じ事が言えて、財政赤字が大きい状態を続けているのは、ポルトガル,スペインもそうだし、イギリスもアメリカも、敢えて言えば日本もそうです。ということになって、「ちょっと極端な言い方をすると 民主主義というのが国民に対して甘いことを言ってしまい、それが財政の赤字に繋がりがちだ」という、(もしかしたら)根源的に抱えている瑕疵 欠陥の可能性があります。
国によって そんなことではいけないので、ドイツのように「財政はしっかりと締めていかなくてはいけない」という国もあります。今週再び問題が複雑になったのは、そのドイツが、EUを作る時からパートナーだったフランスにも相談せずに「一部の株式銘柄,一部の国債銘柄について空売り*2禁止」という措置を打ち出したわけです。「理由もなく売るのは たまらないので、やらせたくない」という気持ちは判ります。でもそれは、「どう考えても一体となってやらなくてはwork*3しないものを突然ドイツだけで打ち出して、一体EUは足並みを揃えた行動ができるのか」という疑念に繋がったわけです。
岸田 今、これだけ世界が同時にhowlingを起こしている中で、一つの国だけが勝手な そういう行動を採ってしまった ということなんですね。 【howling:[形](1)〈犬などが〉遠ぼえする, 〈風・あらしが〉ヒューヒューとうなる;荒涼とした(2)[略式]どでかい, まったくの(very great)】引用元:ジーニアス英和辞典 :Taishukan
伊藤 今、「勝手」って おっしゃったでしょう?これ、結構難しいんです。というのは、「ギリシャ支援策をドイツの国会で通すためには どうしたらいいか」というのを、メルケル政権は考えに考えてやった可能性があるんです。だから、もし ああしなかったらドイツの国会がギリシャに関わる問題でNOと言ったかもしれないです。
岸田 ドイツ国内の問題も…
伊藤 国内の問題は確かにあるんです。だけれども、それをやってしまったらフランスがびっくりして、今 来日しているEU通貨担当のユンケルさん*4だったかな?あの人も、「びっくりした」と言っているんでしょ? ジャン=クロード・ユンケル - Wikipedia
岸田 はい(笑)
伊藤 それはマーケットだってびっくりしますよ。「ドイツだけが、そんなことするの? EUって共同体だから、マーケットに関わることは一緒の足並みなんじゃないの?」という風に思うわけですよ。そうすると(マーケットは)「あっ、足並みまで乱れてきた」と思うわけですよ。ギリシャの国民は言うことを聞かないのに加えてドイツ(EU中心の国)が自分たちがやればいいと思ったのかもしれないですが、それは間違いです。
ドイツというのは、過去に於いても ちょっとした思い込みによる単独行動で世界のマーケットを揺さぶってきた記憶があるじゃないですか、またアメリカも不快感を持っているわけです。来週ガイトナーさんがドイツ,フランスへ行って「ちょっと しっかりしてくれなきゃ世界経済が大変なことになるよ」と警告を出しに行くんですけど、その結果もわからないということで、今日(2010年5月21日)の東京なんかも「もう、どうしたらいいのか判らない」という投資家がキャッシュ化を急いだ*5、リスクを回避する行動に出た。だから円も89円台に一回 落ちています。
(先ほども申しましたが、)「5月6日に998ドル落ちて、何だったのか、何をしなければいけないのか」について最終的な結論は出ていません。知らないうちに5分ほどで900ドル以上落ちて、次の瞬間には戻っているかもしれないマーケットではオーダー出せないじゃないですか。全体的に流動性は低下しているんだと思います。
そうすると、2つの懸念「世界の今の金融システムが本当に守られているかどうなのか」というのと、「株式のトレーディングシステムに関わる不安は まだ残っているよね」というのがあるんです。だから、そういう意味でマーケットは極めて下げやすい環境にある。
では、それを抜け出せるために どうすればいいのか というのは、ギリシャ問題について言うならば、ギリシャの国民が「国としてもベルトを締めなくてはいけないのだから、ある程度賛成しなくてはいけないですよね」という気持ちになるのが第一です。これは最低限必要です。
その上で、ドイツがフランスと もう一度協調体制を作り直してEUとして行動できる。EU諸国も、財政赤字削減に向けた きっちりした体制も整えられる。その条件が私は必要で、それができればマーケットは相当安定する。
それに加えて、日本もアメリカも実力以上に国民に対して支出している状況をいずれは解消する。国のお金が出ていって、それが景気を支えている面もあるわけですから、今すぐには無理ですが、シナリオを示すということです。「日本もそんなに放漫*6な財政を続けていくわけではないですよ」ということをマーケットに示さなければいけないです。それができると一歩前進。もう一つは「NYの急落を招いたシステム上の欠陥をどう建て直すことができるのか」ということです。


米SEC「株価急落6つの仮説」を検証する


「株価急落6つの仮説」:要約

  1. 「S&P 500ミニ先物」が市場全体の下げを主導
  2. 値付け業者が売買注文を止めたことで流動性が枯渇
  3. NYSE*7個別銘柄の取引中断で他市場に売り注文が集中
  4. 損失回避の投資家の売り注文が下げを加速
  5. 買い手不在の中、極端な安値の買い注文が約定
  6. 上場投資信託ETF)の下げも顕著に
米SEC「株価急落6つの仮説」を検証する【5月21日(金)】
岸田 株価が998ドル一気に下がった。その株価急落の「6つの仮説」というのが発表されました。
伊藤 2週間近く調べて、「まだ単一の原因は見つけ出すことはできませんでした。今出せるのは6つの仮説です。」というのが出てきたときに、私は 残念だと思いました。(苦笑)要するに「わからない わけでもない」ということですよね。
ちょっと紹介すると、誤入力説とかいろいろありました*8が、今回のSEC*9とCFTC*10の「6つの仮説」の中に、それは入っていません。 エス‐イー‐シー【SEC】(Securities and Exchange Commission)証券取引委員会。アメリカで、1934年証券取引所法に基づいて創設された行政機関。公正な証券取引、投資者の保護を任とし、規則制定・捜査などの強力な権限をもつ。】引用元:広辞苑 【CFTC (U.S.Commodity Futures Trading Commission)米商品先物取引委員会】via(英語版)Commodity Futures Trading Commission - Wikipedia, the free encyclopedia (日本語版)商品先物取引 - Wikipedia
1番目の『「S&P 500ミニ先物」が市場全体の下げを主導した』これは最初からわかっています。*11 5月7日(金)放送分 文字起こしへのリンク
下がりだしたところに、2番目として『値付け業者が売買注文を止めたことで流動性が枯渇した』これは、「値付け業者というのは、売買注文は出さなくてはいけない。」となっているんですよ。
岸田 マーケットメーカーという … すよね。 聞き取れませんでした。18分27秒
伊藤 マーケットメーカーですから。ところがこのときには出さなかった。「なぜ出さなかった」というのが仮説の中に入っていないわけですよ。これ不満ですよね。
岸田 「なぜなのか」というところが、まだわからない。
伊藤 そういうところです。もっと言えば、「S&P 500ミニ先物」が なぜ下げを主導したのか。「なぜここで売りが起きたのか?」というところが説明されていないんです。
岸田 元々そこがわからないと…
伊藤 そうです。ここについて誤入力があった*12というなら理解できるのですが、それがないんです。
3番目には、『NYSE*13個別銘柄の取引中断で他市場に売り注文が集中した』これ具体的にはNASDAQを言っています。つまり、「NYは止まったけど、他の取引所は まだやっていたので、そこに売りが集中してボコッと落ちちゃった」という話ですよね。 ナスダック【NASDAQ】(National Association of Securities Dealers Automated Quotations)アメリカの店頭市場で用いられる株式売買システム。1971年稼動開始。また、それを用いた市場。 引用元:広辞苑
それが起きたものだから、4番目の『損失回避の投資家の売り注文が下げを加速した』この投資家なんですけれども、どうもここには 私の推測ですが、high frequencyと言われているナノセカンド*14で注文を出し入れする業者が関わっていた可能性が高いと思う*15んです。 high-frequency traders または HFTs とも言う非常に短時間の間に、高速に取引を繰り返して、アルゴリズムに基づいて、大量取引をするシステム
人間が電話を取って、それから入力するのは時間がかかるじゃないですか。high-frequency tradersというコンピュータを極限まで速く稼働できる業者が売り注文を大量に出した可能性があります。 5月14日(金)放送分 文字起こしへのリンク
岸田 そういう業者は、もの凄く大きな単位の売買をしますからね
伊藤 そういうことです。しかも、下げがきついと 売り注文が2倍,3倍…5倍…10倍となっていきます。
5番目が『買い手不在の中、極端な安値の買い注文が約定した』と。例えるなら、「さっきまで20ドルで取引されていました。ハッと気付いたら5ドルで取引されています。」といったら それはマーケットは震撼します。
岸田 そうですよね
伊藤 一部の銘柄については1ペンス*16まで落ちたと言われています。それは さすがに そこで買いが入ったらしいです。
6番目は『上場投資信託ETF)の下げも顕著になった』ということがあります。昨日(5月20日(木))の夜にwebを見ていたら、アメリカ議会が公聴会をやっていました。その議論はしていたんですけれども、なぜかというのは まだわからないですね。そうすると、「あれ?まだあの問題決着付いていなかったよね?」「また落ちるかもしれないよね?」と考えたら 投資家の皆さんは「何か私のところで知らないように相場が動いている」と考えるのではないでしょうか。しかも「5分間でアッと行ったり来たりするようなマーケット…嫌だな」と考えるのが普通ではないでしょうか。だからSEC*17とCFTC*18はサーキットブレーカーの問題も含めて早急に投資家を安心させる措置を打ち出さなくてはいけないし、その原因は単一ではなくても究明せざるを得ないと思います。


講談社の新作小説、電子書籍なら半額のインパク
講談社の新作小説、電子書籍なら半額のインパク
岸田 続いてマーケットから話題が離れまして、講談社京極夏彦さんの新作小説がiPad電子書籍で半額で読める。
伊藤 講談社としては「何らかの形で新しい時代に出版業界として、インパクトを与えたい」とそういうことなんでしょう。出版業界にはいろいろな懸念があります。例えば、今までは 著作者,出版業者がいて、マーケットに出すということで、著作者が出版社を通して出していました。これから何が起こり得るかというと、「中抜き」といって「出版社を経由しないで業者と直に話をつけて本を出す。」連中が出てくるかもしれないと。
岸田 当然ありますよね。それは
伊藤 そうすると、「出版というビジネスモデルは成り立たないよね?」という話になるじゃないですか。だから、いろいろ懸念がある中で講談社は、「リスクはあるけど、これだけ情報伝達ツールが発達して、新しいツールが出てきた中では無視できないだろう」ということで、マーケットをサウンドしたいという気持ちがあってこれをやったんだと思います。だから新刊だと1,700円のものを900円で*19やると。なぜ900円かというと???*20の部分もありますけれども印刷代がかからないとか、輸送費がかからないとか。私は、自分でも本を書いているので思うんですけれども、「今まで1,600円だったとすると700円か。うーん…」より多くの人に読んで貰えばいいなという気持ちもあります。
iPadの中にどれだけの本が入るのか、講談社のような措置をする出版社がどれだけ出てくるのかわかりませんが、怖くても一回突っ込むしかないと思います。そのなかで どうやって隣接権と言ったのかな?周辺の人が富をシェアできるようなシステムを作れるのかというのが重要な課題なんですけれども、とにかくツールが増えてきているので、それを一回やらなければと思います。
岸田 今週のニュースファイルでした


今週【5月21日(金)】の気になる作品

今週【5月21日(金)】の気になる作品
岸田 今週の気になる作品のコーナーです。伊藤さんが注目されている映画や本など、世の中の作品諸々について独自の視点で語っていただきます。
伊藤 これは、twitterで私に インドの本が紹介されている。と教えてもらい、手にとった本で、題名は『本は10冊同時に読め!』という本で、誰が書いていると思います?マイクロソフトの前のトップだった成毛眞さんが書いた本なんですよ。
岸田 さすがですね。私には決してできません。3冊くらいがMaxだと思いますね。
伊藤 私も新幹線に乗る*21に3冊ほど買って、まぁ3冊くらいは同時にやります。でもこの人は、10冊読めと書いてあってね。
岸田 私には無理です。
伊藤 しかもその本が、私の本も紹介されていたのですが、ちょっと脈絡のない並び方になっていて、ちょっと過激なんですうよ。「本を読まないヤツは猿だ」と書いてあるんですよ。でも私は3冊だから中間の猿かな?この本は、厳しい単語がいくらでも出てきます。なかなか最近ではピリッと辛い本でございました。
岸田 今週の気になる作品は、書籍『本は10冊同時に読め!』(成毛眞三笠書房・知的生き方文庫)でした。


Check the Tomorrow

明日以降予定されている内外のイベントの中からポイントになるものをピックアップします。

  • 5月24日(月)
    • 3月全産業活動指数
    • 5月金融経済月報
    • 米4月シカゴ連銀指数
    • 米4月中古住宅販売件数
    • 米中戦略--経済対話(25日まで/北京)
  • 5月25日(火)
    • 米3月S&Pケースシラー住宅価格指数
    • 米5月コンファレンスボード消費者信頼感指数
    • 米3月住宅価格指数
    • ユーロ圏3月製造業受注
  • 5月26日(水)
  • 5月27日(木)
    • 4月貿易収支
    • 米1〜3月GDP(改定値)
    • 米1〜3月個人消費(改定値)
    • 米1〜3月コアPCE(改定値)
    • 米1〜3月企業収益(速報)
    • OECD閣僚理事会(28日まで/パリ)
    • 2010年中国エネルギー戦略フォーラム(28日まで/北京)
  • 5月28日(金)


番組エンディング

岸田 fujitsu presents 伊藤洋一round up world now! この番組は富士通富士通 : FUJITSU Japan)の提供でお送りいたしました。
伊藤 ということで、伊藤洋一
岸田 岸田恵美子でした
伊藤 Ate' breve*22 Obligato*23


番組公式サイト:伊藤洋一のRound Up World Now! | ラジオNIKKEI


番組存続のためにご協力くださいiTunespodcastをダウンロードおねがいします

下図のように、番組公式サイトの右側にiTunesへ登録するリンクがあります。



脚注

*1:国家への融資に関するリスク

*2:naked short-selling

*3:機能

*4:ユーログループ議長,現ルクセンブルク首相

*5:risk averse

*6:ずさん

*7:NY証券取引所

*8:5月7日放送分

*9:米証券取引委員会

*10:商品先物取引委員会

*11:5月7日放送分

*12:「B」billionと「M」millionを間違えた

*13:NY証券取引所

*14:10億分の1秒

*15:5月14日放送分

*16:1ポンドの100分の1

*17:米証券取引委員会

*18:商品先物取引委員会

*19:支払いシステムが どんなものになるのか 知りませんが

*20:聞き取れませんでした。22分36秒

*21:大阪へ行くとき

*22:See yoo soon

*23:ありがとう